大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

神戸地方裁判所 平成10年(行ウ)44号 判決

原告 岡本喜久司

被告 国、神戸地方法務局西宮支局登記官

代理人 北佳子 阿部晃 久井亮仁 岡野計明 ほか6名

主文

一  被告国は、原告に対し、金七二万三〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一一月一〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告神戸地方法務局西宮支局登記官に対する訴えを却下する。

三  訴訟費用は、原告に生じた分は被告国の負担とし、その余は被告各自の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  主文第一項同旨

二  原告が別紙登記目録記載の登記につき平成一〇年三月三日付けでした登録免許税法三一条二項に基づく還付通知請求について、被告神戸地方法務局西宮支局登記官が平成一〇年三月一三日付けで原告に通知してなした「過誤納付の事実は認められないので、税務署長への還付の通知はできません」という旨の処分を取り消す。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

四  第一項につき仮執行の宣言

第二事案の概要等

一  事案の概要

本件は、原告が、阪神・淡路大震災により損壊したため取り壊した建物に代わるものとして新築した建物について所有権保存登記の申請をした際、平成七年法律第四八号による改正後の阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律(平成七年法律第一一号。以下「特例法」という。)三七条一項が適用されないと誤信して登録免許税を納付したため、その後原告が登録免許税法三一条二項に基づく還付通知請求をしたのに対し、被告神戸地方法務局西宮支局登記官(以下「被告登記官」という。)は還付通知をしない旨の通知をしたが、右登録免許税の納付は誤納付であると主張して、被告国に対して右登録免許税額相当額の不当利得の返還を、被告登記官に対して右通知処分の取消しを求める事案である。

二  関係法令の定め

特例法三七条一項は、「阪神・淡路大震災の被災者であって政令で定めるもの又はその者の相続人その他の政令で定める者が阪神・淡路大震災により滅失した建物又は当該震災により損壊したため取り壊した建物に代わるものとして新築又は取得をした建物で政令で定めるものの所有権の保存又は移転の登記については、大蔵省令で定めるところにより平成七年四月一日から平成十二年三月三十一日までの間に受けるものに限り、登録免許税を課さない。」と規定して阪神・淡路大震災の被災者に関して登録免許税の免税措置を定め、右規定を受けて、平成七年政令第九九号による改正後の阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行令(平成七年政令第二九号。以下「特例法施行令」という。)二九条一項は、「法第三十七条第一項に規定する政令で定める被災者は、阪神・淡路大震災によりその所有する建物に被害を受けた者であることにつき、当該建物の所在地の市町村長から証明を受けた者とする。」と規定し、大蔵省令である阪神・淡路大震災の被災者等に係る国税関係法律の臨時特例に関する法律施行規則(平成七年大蔵省令第一二号。以下「特例法施行規則」という。)二〇条一項は、「法第三十七条第一項の規定の適用を受けようとする者は、その登記の申請書に、令第二十九条第一項又は第二項第二号若しくは第四号の市町村長の証明に係る書類で阪神・淡路大震災によりその所有していた建物に被害を受けた者の氏名又は名称及び住所又は本店若しくは主たる事務所の所在地並びに当該建物の所在地の記載があるもの(当該登記に係る建物が同条第三項第二号に掲げる建物に該当する場合には、当該書類及び同号に規定する証明に係る書類)を添付しなければならない。」と規定して登記申請書に市町村長の被災証明書を添付しなければならない旨定めている。

三  争いのない事実(証拠を掲げた事項以外は当事者間に争いがない。)

1  原告は、賃貸用に使用していた所有建物〈略〉が、平成七年一月一七日に発生した阪神・淡路大震災により損壊したため、右建物を取り壊した(〈証拠略〉)。

2(一)  原告は、その後、前記1記載の建物に代わるものとして別紙物件目録〈略〉記載の建物(以下「本件建物」という。)を新築し、平成九年一一月二八日、神戸地方法務局西宮支局に本件建物に係る建物表示登記を申請した。被告登記官は、同日受付第五九一四二号をもって同申請を受け付け、同年一二月二日付けをもってその登記を実行した。

(二)  原告は、平成九年一二月四日、神戸地方法務局西宮支局に本件建物について原告を登記名義人とする別紙登記目録〈略〉記載の保存登記を申請し(以下「本件登記申請」という。)、被告登記官は、同日受付第六〇一六〇号をもって右登記をした。

原告は、本件登記申請に際し、登録免許税として、七二万三〇〇〇円(本件建物の課税価格一億二〇五〇万六〇〇〇円の一〇〇〇分の六。登録免許税法別表第一の一の(一)参照。)を納付した(以下「本件納付」という。)。

3  原告は、被告登記官に対し、平成一〇年三月四日到達の書面で、特例法三七条一項にいう登録免許税の免税措置が適用されるから、本件納付は過誤納付に該当するとして、所轄税務署長に返還通知をすべき旨の請求をした(以下「本件還付通知請求」という。)。

4  被告登記官は、平成一〇年三月一三日、原告に対し、本件還付通知請求については、特例法三七条一項の規定による登録免許税の免除の証明書を添付して登記申請のあった事実が認められず、登録免許税の過誤納がないので、税務署長への還付の通知はできない旨、及び、この処分について不服がある場合は、この通知を受けた日の翌日から起算して二月以内に、国税不服審判所長に審査請求をすることができる旨記載した通知書を送付し、右通知書は翌三月一四日(〈証拠略〉)原告に到達した(以下「本件拒否通知」という。)。

5  原告は、平成一〇年三月二五日、国税不服審判所長に、本件拒否通知を不服として審査請求をしたが、同年九月八日、右審査請求を棄却する旨の裁決がなされた。

6  なお、原告は、本件登記申請以前に、阪神・淡路大震災により損壊したため取り壊した自宅建物に代わるものとして新築した建物の保存登記を申請したことがあるが、その際には、特例法三七条一項による免税措置を受けている。

四  争点

(本件拒否通知の取消しについて)

1 本件拒否通知の取消しを求める訴えは適法か(登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知の行政処分性)。

2 本件拒否通知が行政処分であるとした場合、本件拒否通知は適法か(本件納付は誤納付に当たるか―登記申請時における被災証明書の添付は課税「免税」要件か。)。

(不当利得返還について)

3 登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知が存しても、登録免許税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、直接不当利得の返還を求めることができるか。

4 本件納付は法律上の原因を欠くものであるか(本件納付は誤納付に当たるか―登記申請時における被災証明書の添付は課税「免税」要件か。)。

第三争点に関する当事者の主張

一  争点1(本件拒否通知の取消しを求める訴えは適法か[登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知の行政処分性])について

(被告登記官の主張)

登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知は、以下のとおり、取消訴訟の対象となる行政処分に当たる。よって、本件拒否通知の取消しを求める訴えは適法である。

1 登録免許税法三一条二項は、単に登記等を受けた者は登記機関に申し出て還付通知請求ができる旨規定しているにすぎないが、登記機関から同条一項の通知がされた場合には、その通知を受けた税務署長は、国税通則法五六条に基づき、遅滞なく過誤納金の還付をしなければならないのであるから、登録免許税法三一条二項は、還付請求権の行使に関し登記機関に対する還付通知請求という手続によるべきことを定め、登記等を受けた者に対してそのような手続上の権利を認めたものと解すべきである。そして、右権利が行使された場合、登録免許税法が登記機関に対してこれを放置することを容認しているとは解せないから、同法三一条二項は登記機関に還付通知請求に対する応答義務があることを併せて規定したものというべきである。

登記実務においても、取扱いについて明文を欠く過誤納付が認められない場合、還付通知請求者に対し、「税務署長への還付通知はできない」旨通知するだけでなく、国税通則法七五条一項五号の規定(国税不服審判所長に対する審査請求)の教示事項を付記して通知している(昭和四四年一二月五日付け民事三発第一〇一八号民事局第三課長回答、昭和五四年二月二一日付け民三第九五四号民事局第三課長依命通知)。

2 したがって、登記機関が還付通知請求に対してなす還付通知をしない旨の通知は、登録免許税に関する過誤納金の還付通知請求権の行使に対し、かかる権利の存在を否定する処分であり、これにより国民は還付通知請求という手続によって還付を受けることができなくなるから、この点において右処分は不利益処分であって、その還付通知請求権を否定する点に公定力を有する行政処分であるというべきである。

3 なお、登録免許税が公定力をもって確定されることのない自動確定方式の租税であることは、登記機関のなす還付通知をしない旨の通知の行政処分性を否定する根拠たり得ない。なぜならば、還付通知をしない旨の通知が自動確定する課税標準や税額の変動をもたらすものではないとしても、前記のように、この通知が登録免許税に関する過誤納金の還付通知請求権の行使に対し、かかる権利の存在を否定するものである点において、還付請求権者の法律的地位を変動させる法的効果を有するものというべきであるから、更正の請求に対する更正すべき理由がない旨の通知と同様、公定力のある行政処分というべきなのである。

(原告の主張)

登録免許税は自動確定の租税であるから、還付通知及び還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知も、単に還付の事務を円滑ならしめるための認識の表示にすぎず、右通知が、過誤納税額の還付請求者の法律的地位を変動させる法的効果を有することはない。よって、本件拒否通知は、取消訴訟の対象となる行政処分には当たらない。

本件訴訟において原告が本件拒否通知の取消しを求めているのは、被告らが本件拒否通知は行政処分であり、返還請求が認められるためにはその処分を取り消す必要があるとの立場をとっているため、あえて、その取消しを求めているにすぎず、本件拒否通知の行政処分性を認めているわけではない。

二  争点2(本件拒否通知が行政処分であるとした場合、本件拒否通知は適法か[本件納付は誤納付に当たるか―登記申請時における被災証明書の添付は課税〔免税〕要件か])について

(被告登記官の主張)

1 登記申請時における被災証明書の添付は、以下のとおり、課税(免税)要件である。したがって、本件納付は誤納付に当たらず、本件拒否通知は適法である。

(一) 特例法三七条一項は「・・・登記については、大蔵省令で定めるところにより・・・受けるものに限り」という規定の仕方を採っているのであって、右規定を素直に読めば、「同項により登録免許税の免除が受けられる登記は、大蔵省令で定める手続に従ったものでなければならない」とされていることは明らかである。そして、登録免許税の納税義務は登記の時に成立し(国税通則法一五条二項一四号)、納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで自動的に確定するのであるから(同条三項六号)、特例法三七条一項の右文言からは、「登録免許税が成立・確定する登記の時点で、大蔵省令で定める一定の手続を踏んだ登記に限り、登録免許税の免除の対象となる」ということが明示されているというべきである。

したがって、特例法三七条一項が、その規定自体において、大蔵省令で定める手続に従った登記であることを免税要件とするということを明示した上で、その手続の細目を大蔵省令に委任していることは、同項の文言上明らかであるというべきであり、それ以外の解釈を入れる余地はない。

(二) 租税特別措置法の中には、例示的に一定の書類を示した上で、その他大蔵省令で定める書類を添付した場合に限り当該特例措置を適用するという体裁を採った規定も見受けられるが、このことは、右解釈と何ら矛盾しない。なぜならば、一定の手続を課税要件とすること自体が当該法律で規定されているかということと、その手続内容を当該法律自体が規定しているかということは全く別であり、租税法律主義の観点から問題となるのは前者であって、当該法律文言から一定の手続を踏むことが課税要件となっていることが一義的に明確になっている限り、租税法律主義に何ら抵触しないからである。

(三) 以上のとおり、特例法三七条一項は、手続的課税要件を明示し、その手続の細目を大蔵省令に委任し、大蔵省令である特例法施行規則二〇条一項は、登録免許税の免除を受けるための要件として、登記申請時に被災証明書を添付することを要求しているものである。

2 なお、登録免許税の納税義務は、登記の時に成立し(国税通則法一五条二項一四号)、その納付税額は納税義務の成立と同時に自動的に確定するところ(同条三項六号)、特例法、特例法施行令及び特例法施行規則の中には、確定した登録免許税を免除し、あるいは宥恕する取扱いをすべき旨を定めたような規定もないから、登記申請時に被災証明書を添付しない限り、登録免許税の免除は受けられず、登記が完了した時点で被災証明書を追完したとしても、特例法三七条一項の定める登録免許税の免除の要件を具備したことにならないというべきである。

(原告の主張)

1 特例法三七条一項を免税についての手続的課税要件をも定めたものと解することは、以下のとおり租税法律主義に反するから、本件登記申請時に被災証明書を添付していなくとも、特例法三七条一項が適用されないと誤信してなされた本件納付は誤納付に当たり、本件拒否通知は違法である。

(一) 租税法律主義の下では、租税の種類や課税の根拠のような基本的事項のみでなく、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の課税要件はもとより、賦課、納付、徴税の手続も法律により規定すべきものであり、課税要件として手続的な事項を定める場合も、これを法律により定めることを要する。また、法律が政令以下の法令に委任する場合には、委任の目的・内容・程度が委任する法律の中で明確にされていなければならない。手続的な事項を課税要件として定めるのであれば、一定の手続を課税要件とすること自体を一定の範囲で一義的に明確に法律で規定し、その上で課税要件となる手続の細目を政令以下の法令に委任しなければならない。

(二) 特例法三七条一項は、実体的要件についての当事者や建物について一定の範囲を明らかにした上で政令に委任する旨規定し、免除を受ける登記の期間については自ら規定している。しかるに、手続的部分についての「大蔵省令で定めるところにより」との文言は抽象的であり、一定の文書を例示した上で大蔵省令で定める書類を添付して受けるものに限るというような限定がないのであって、同条項が手続的な課税要件を大蔵省令に委任したと解することはできない。

(三) したがって、同条項を手続的課税要件をも定めたものと解することは、租税法律主義に反する。

2 なお、被告登記官は、確定した登録免許税を免除し、あるいは宥恕する取扱いをすべき旨を定めたような規定もないから、登記申請時に被災証明書を添付しない限り、登録免許税の免除は受けられない旨主張するが、特例法三七条一項の免除規定については、租税特別措置法四一条六項、七〇条五項のような明文の失権規定が特例法自体に存しないのに、大蔵省令(特例法施行規則)により失権効のある要件が定められているというような解釈は、租税法律主義に反する。

三  争点3(登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知が存しても、登録免許税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、直接不当利得の返還を求めることができるか)について

(原告の主張)

1 還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知は、争点1(原告の主張)のとおり行政処分ではないから、過誤納付の事実があれば、その事実だけで被告国は右過誤納金を保有する法律上の原因を欠き、不当利得として返還すべき義務がある。

2(一) 仮に、登記機関の応答が広い意味で国税通則法七五条一項五号の処分に該当し、これに対する不服申立等ができるとしても、登録免許税法自体が、国税通則法のように更正の請求に対する「更正すべき理由がない」旨の通知応答規定を設けていないのであるから、その返還請求手続を行政争訟手続に限っているとまでは解釈できない。

(二) そして、登録免許税法三一条二項が通知請求の相手方を登記機関とし、その期間も一年間に限定しているのは、本来は税務署長が遅滞なく行うべき誤納金の返還手続について、登録免許税の性質上同条一項のように登記機関の判断を介して、簡易迅速的確にこれを実現するための方法として定めているにすぎないから、還付加算金に関する定めが不当利得返還請求をする場合の起算日や利息利率と異なっており、行政手続による過誤納金の返還請求の場合と直接不当利得返還請求を国に対してする場合とで効果に若干の差異があるからといって、そのことから直ちに不当利得返還請求をも排する趣旨と解することはできない。

(三) 不当利得返還請求が認められないとすれば、登録免許税の過誤納金については、一年以内に三一条二項の請求をしない限りその返還を求めることができなくなるが、登録免許税の過誤納金の返還についてだけ時効期間経過前に右のような結果が生ずるとする合理的理由はない。

(被告国の主張)

還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知があった場合には、以下のとおり、右通知の取消しを求め、その取消しを得て還付通知を経た上、過誤納金として還付を受けるという手続によるべきであって、還付通知をしない旨の通知の取消しの手続を経ることなく直ちに不当利得返還を求めることは許されない。

1 還付通知請求に対して登記機関がなす還付通知をしない旨の通知は、争点1(被告登記官の主張)のとおり、登録免許税に関する過誤納金の還付通知請求権を否定する点に公定力を有する行政処分であるから、還付通知をしない旨の通知がされた場合において、なお還付ないし不当利得の返還を求めるときは、まずもって右通知の公定力を排除するためにその取消しをなす必要があり、右通知の公定力の主張を許さないような特段の事情がないのに、取消しの手続を経ることなく直ちに不当利得返還を求めることは許されない。

2 このことは、以下のとおり、還付通知請求手続の排他性によっても理由付けられる。

(一) 一年の期間制限

登録免許税法三一条二項は、通知請求の相手方を登記機関に限定するとともに、その期間を登記等を受けた日から一年を経過する日までと定めている。このように登録免許税法が、過誤納があった場合にその返還を求める相手方について、税務署長でなく登記機関とし、かつその請求期間を登記を受けた日から一年間に限定したのは、登記に係る登録免許税の課税標準及び税額については、登記機関が最も適正に把握できる立場にあるとの前提に立ち、大量の登記事務の迅速な処理の要請及び登記を原因とする法律関係を早期に確定せしむべき国家財政上の要請に応ずるとともに、法的安定性を損なう弊害を排除しようとした趣旨からであると解される。

(二) 還付加算金の定め等

還付金及び過誤納金のうち、法所定の起算日を徒過して還付されるものについては還付加算金を付して返還しなければならないところ(国税通則法五八条一項)、登録免許税に関する還付加算金の起算日については、登録免許税法二六条一項に定める通知が取り消された場合にはその納付の翌日が、同法三一条二項の規定による還付通知請求をした場合又は当該請求がなく職権で還付通知をした場合には還付通知請求があった日又は還付通知があった日の各翌日から起算して一か月を経過する日の翌日が、それぞれ起算日と定められている(国税通則法五八条、同法施行令二四条一項三号、二項四号参照)が、直接不当利得返還請求をした場合の起算日は法令上定められていない。

また、仮に直接不当利得返還請求をすることができるとした場合、登録免許税法三一条二項の手続による還付の場合、年七・三パーセントの還付加算金が付されるのに対し、不当利得返還請求の場合には、年五パーセントの民法所定の民事法定利息が付されることになるが、なぜ前者の場合に還付加算金が付されるのかについて、合理的な説明に困難を来すことになる。

(三) 更正の請求との対比

申告に係る税額の減額を求める手続としては、更正の請求の制度(国税通則法二三条)が設けられており、特段の事情がない限り申告内容の是正手段は更正の請求に限られる。そして、昭和四五年法律第八号による国税通則法の一部改正の際に、更正の請求の期間が「一月」から「一年」に改められたのと軌を一にして、登録免許税法三一条二項の通知請求の期間も同法改正附則一五条により「一月」から「一年」に改められていること、登録免許税法施行令二〇条二項は国税通則法二三条三項と同趣旨の規定であること等からすると、還付通知請求は、更正の請求と同一の趣旨・目的の制度として規定されているものと解される。

3 なお、登録免許税法は、登録免許税が自動確定方式の租税であることを当然の前提とした上で、法律関係の早期安定を図る目的から、明文をもって還付通知請求の制度を採用し、その利用を強制し、時間的制約を設けたものであると解されるところ、登録免許税が自動確定方式の租税であるとした場合において、そもそもどのような形式で税額が確定するかということと、いったん確定した税額を争う方法を別に定めることとは、直接論理的な関係がなく、両者は何ら矛盾するものではない。

四  争点4(本件納付は法律上の原因を欠くものであるか[本件納付は誤納付に当たるか―登記申請時における被災証明書の添付は課税〔免税〕要件か])について

(原告の主張)

争点2(原告の主張)のとおり、本件納付は誤納付に当たり、法律上の原因を欠く。

(被告国の主張)

争点2(被告登記官の主張)のとおり、本件納付は誤納付に当たらず、法律上の原因を欠くものではない。

第四当裁判所の判断

一  争点1(本件拒否通知の取消しを求める訴えは適法か[登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知の行政処分性])について

登録免許税の納税義務は登記の時に成立し(国税通則法一五条二項一四号)、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する(同条三項六号。いわゆる自動確定の国税)。

このように、登録免許税はその税額が公定力をもって確定されるわけではないので、還付通知請求(登録免許税法三一条二項)に対する還付通知(同条一項)や還付通知をしない旨の通知は、単に還付の事務を円滑ならしめるための登記官の認識の表示にすぎず、過誤納税額の還付請求権者の法律的地位を変動させる法的効果を有するものではないと解されるから、これをもって行政処分ということはできない。

この点に関し、被告登記官は、右還付通知をしない旨の通知は還付通知請求権を否定する点に公定力を有する行政処分である旨主張するが、登録免許税法が、同法三一条二項の還付通知請求について、登記官の応答義務を規定していないこと等にかんがみれば、採用することができない。

以上のとおり登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知は取消訴訟の対象となる行政処分とはいえないから、本件拒否通知の取消しを求める訴えは不適法である。

したがって、争点2については判断する必要がない。

二  争点3(登録免許税法三一条二項の還付通知請求に対する還付通知をしない旨の通知が存しても、登録免許税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、直接不当利得の返還を求めることができるか)について

登録免許税は前記一説示のとおりいわゆる自動確定の国税であるところ、いわゆる自動確定の国税については、申告納税方式又は賦課課税方式をとる国税(国税通則法一六条一項、二項参照)の場合と異なり、その納付が実体法上理由を欠くときには、納付された税額は当然に誤納金となり、当該納付をした者は、当該誤納金の還付請求権(公法上の不当利得返還請求権)を取得するものと解するのが相当である。

還付通知請求(登録免許税法三一条二項)に対する還付通知(同条一項)や還付通知をしない旨の通知は、前記一説示のとおり単に還付の事務を円滑ならしめるための登記官の認識の表示にすぎないと解されるから、還付通知をしない旨の通知(本件拒否通知)がされても、右取得した誤納金の還付請求権に消長を来すものではないし、登録免許税の過誤納金について、登記等を受けた日から一年以内に還付通知請求をしない限り、その返還を求めることができなくなるとは解されない。また、直接不当利得の返還を求めた場合の還付加算金の起算日が法令上定められていないからといって、法律が直接不当利得返還請求をすることを禁じたものとも解されない。

以上のように、登録免許税法三一条の規定は、登録免許税の納付につき法律上の原因を欠くことを理由として、当該誤納金について国に対し直接不当利得としてその返還を求めることを禁ずる趣旨のものではないと解するのが相当である。この点に関する被告国の主張は、採用することができない。

三  争点4(本件納付は法律上の原因を欠くものであるか[本件納付は誤納付に当たるか―登記申請時における被災証明書の添付は課税〔免税〕要件か])について

1  特例法三七条一項が「・・・登記については、大蔵省令で定めるところにより・・・受けるものに限り」という規定の仕方をしていること、登録免許税の納税義務は登記の時に成立し、納付すべき税額は納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで確定することからすると、右規定は、同条項により登録免許税の免除が受けられるのは、登録免許税が成立・確定する登記の時点で大蔵省令で定める手続に従って受ける登記であることを要する、すなわち、大蔵省令で定める手続に従った登記であることを免税要件とすることを定め、その手続的要件の内容を大蔵省令に委任しているものと一応解することができる。

2  しかしながら、右大蔵省令への委任は、以下のとおり租税法律主義に反し、効力を有しないというべきである。

憲法の定める租税法律主義(憲法八四条)の原則からすれば、単に租税の種類や課税根拠等の基本的な事項が法律で定められるというだけでなく、納税義務者、課税物件、課税標準、税率等の実体的要件はもとより、賦課、納付、徴収の手続もまた、法律によって定められていなければならないと解される(最高裁判所昭和三〇年三月二三日大法廷判決・民集九巻三号三三六頁参照)。そして、このことは、特例法三七条一項のように、通常の課税要件よりも納税者に有利な特例措置を定めるものについても、同様に妥当すると解すべきである。

もとより、かかる租税法律主義の原則の下においても、課税要件の下位規範への委任は認められると解すべきであるが、その場合にも、下位規範への委任は具体的・個別的であることを要するのであって、手続的課税要件の下位規範への委任については、単に課税の手続を課税要件とすること自体を法律で定めるのみでは足りず、どのような手続的課税要件の定めを下位規範に委任するかという、委任を受けた下位規範が定めるべき内容のよりどころとなるような基準まで定めていなければならないと解すべきである。けだし、手続的課税要件として想定される事項は、多様であり、単に手続を課税要件とするということ自体を法律で定めればよいとするのであれば、行政機関の無制限の裁量を認めるに等しく、租税法律主義の目的に反することになるからである。

本件の特例法三七条一項においては、「・・・登記については、大蔵省令で定めるところにより平成七年四月一日から平成一二年三月三一日までの間に受けるものに限り、登録免許税を課さない。」と規定しているのみであり、どのような手続的課税要件の定めを大蔵省令に委任するかを判断するための手掛かりはない。

他の法律の規定をみると、例えば、登録免許税法四条二項は、「・・・登記等(同表の第四欄に大蔵省令で定める書類の添附があるものに限る旨の規定がある登記等にあっては、当該書類を添附して受けるものに限る。)については、登録免許税を課さない。」、同法五条一項は、「・・・登記等(第四号又は第五号に掲げる登記又は登録にあっては、当該登記等がこれらの号に掲げる登記又は登録に該当するものであることを証する大蔵省令で定める書類を添付して受けるものに限る。)については、登録免許税を課さない。」、租税特別措置法四一条八項は、「第一項の規定は、確定申告書に、・・・大蔵省令で定めるところにより、当該金額の計算に関する明細書、登記簿の抄本その他の書類の添付がある場合に限り、適用する。」としていて、書類の添付を要するとする手続的課税要件自体は法律で定めた上、その添付すべき書類についての細目の定めを大蔵省令に委任することを定めているのである。

なお、租税特別措置法中の他の規定において、特例法三七条一項と同様に「大蔵省令で定めるところにより・・・登記を受けるものに限り」というような規定の仕方をしているものが相当数あるが(七二条ないし七五条等)、だからといって、右のような規定がどのような手続的課税要件を下位規範に委任しているのかが明らかであるということにはならない。

そうすると、特例法三七条一項は、どのような手続的課税要件を大蔵省令に委任しているのか明らかでなく、いわば白紙的に委任しているものというほかはないから、右委任は租税法律主義に反して無効であり、したがって、特例法施行規則二〇条一項の定める登記申請書への被災証明書の添付をもって課税(免税)要件とすることはできない。

特例法三七条一項による委任を受けた特例法施行規則二〇条一項が登記申請書への被災証明書の添付を要すると規定しているその内容自体は、合理的というべきであるが、法律によって白紙的委任を受けて定められた大蔵省令の内容が結果的に合理的であるからといって、このことから逆に法律による大蔵省令への白紙的委任が許されるということにはならない。

3  以上によれば、原告は、本件登記申請に際し特例法施行規則二〇条一項の定める被災証明書を添付しなかったとしても、登録免許税の免除を受けられないわけではないから、本件納付は誤納付に当たり、納付された税額は被告国がこれを保有する法律上の原因はないことになる。したがって、被告国は、原告に対し、右誤納付に係る登録免許税額七二万三〇〇〇円と同額を不当利得として返還すべき義務を負うといわなければならない。

第五よって、被告国に対し七二万三〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年一一月一〇日(訴状送達の日の翌日であることが記録上明らか)から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める原告の請求を認容し、被告登記官に対し本件拒否通知の取消しを求める訴えを却下することとして、主文のとおり判決する(なお、主文第一項につき、仮執行の宣言は相当でないから、これを付さないこととする。)。

(裁判官 水野武 田口直樹 大竹貴)

登記目録〈略〉

物件目録〈略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例